第79章 邂逅
ふご、と自分のイビキで目が覚めた。
目の前には薄い水色。
……見慣れた枕カバーの色だ。
「……寝てたっスわ」
しまった。
練習終わって、家に帰って来てからの記憶がない。
メシ……食ってないよな。
風呂にも……入ってないよな。
おまけに、うつ伏せで寝てた。サイアクだ。
顔がむくんだらどーするんスか……
起き上がって給湯器のスイッチを入れ、冷蔵庫の中のミネラルウォーターで口の渇きを潤した。
今日、何日だっけ。
あれ、明日……っつかもうすぐ日が変わるけど、誕生日だよな。
みわと会う約束、してたよな。
この間、あきサンの事を話しに来たとき少し混乱してたみたいだったから、落ち着くまで待ってたんスけど……予定通り来てくれるっスよね?
若干心配をしながらスマホを覗くと、みわからのメッセージ。
その内容に自然とニヤけてしまう。
へへ、これで明日の練習試合も頑張れそうっス。
着替えを準備しようと立ち上がった途端、部屋に響いたのは玄関チャイムの音。
……このシチュエーション、どっかで。
『やっほー』
モニターの向こうでは、チアキサンが嬉しそうに笑っていた。
「ごめんね~、突然」
「こんな時間にどしたんスか、また酔ってんの?」
「今日は酔ってない! 誕生日だって噂を聞きつけて、お祝い持ってきたんだよーん」
この口調、酔っ払いじゃねえスか。
その手には、ビニール袋。
パティスリー……と書いてあるのを見ると、ケーキなりなんなりのお菓子が入っているのだろうか。
「貰えないっスよ」
「いいじゃん、折角来たんだから。ほら、日持ちするから冷蔵庫入れといて。学校の先輩とか彼女とかと食べなよ」
ぐいぐいと胸元に押し付けられて。
……まあ、バレンタインでもなし、断る理由もない。
彼女の言う通り、センパイ達と一緒に食おうかな?
「んー、じゃあありがたくいただくっス」
「お誕生日おめでと。あ、帰りにトイレ借りてっていい?」
「ハイハイ……」
チアキサンは、さっさと帰ってしまった。
なんなんだ、あのヒトは。