第79章 邂逅
「いやあ、安心したよ」
目の前のマクセさんはあっはっはと大笑いしてから、アイスコーヒーを飲み干した。
結局昨日あの後、あれやこれやと勢いで言い合って、どうにも収拾がつかないままなんだかんだで解散になってしまった。
というよりも、あのままじゃ冷静になれそうにないからと、ふたりで判断しての結論だ。
「安心、ですか……?」
「そう、安心。君達ふたりはいつも熟年夫婦みたいな安定感があったから、やっと10代のカップルらしいエピソードが聞けて安心したよ」
「そんな感じじゃないんですが……」
マクセさんは楽しそうに笑っているけれど、事態はそんなのんびりなものじゃなくて。
もうあと数日後には涼太の誕生日なのに、このままの雰囲気じゃ……
「いや、良い事なんだよ」
良い事?
何が……?
思った事がやっぱり顔に出てしまっていたのか、マクセさんはすぐに説明をしてくれる体勢になった。
「そうやって言い合える事は何より大切だよ。表面だけ楽しい事を話す相手はいくらでも出来る。でもそればかりをやって、自分の中の汚い感情も悪い感情も誰かに受け止めて貰わないと、中が腐るんだ」
腐る……
「一旦腐ってしまうとね、感情の行き先がなくなる。そのうちにどんどん腐敗が広がっていって、最終的には表面まで腐る……また遠まわしな話をしてしまったな。とにかく、思っている事を言い合う大切さをもっと実感した方がいいよ」
思っている事を言い合う大切さ。
口に出さなきゃ伝わらない事、いっぱいある。
それは分かっているんだけど……
「でも私、彼を怒らせてしまって……どういう風に接したらいいのか、分からないんです」
「怒る? 黄瀬君がそう言ったのか?」
マクセさんは意外そうにそう言った。
涼太が言っていたわけじゃないけれど……
「神崎はもう少し彼に対しても自信を持つべきだな」
マクセさんは微笑んで伝票を取り、立ち上がった。