第79章 邂逅
睡眠時間を削る……そうなるよね。
そこまでは具体的に考えてなかった。
勉強は移動時間にも出来るし、終電もそれほど早くないというところまでは調べてたけど……。
「う、うん、そう……なるかな」
涼太は床を踏みしめるようにして、こちらまで戻ってきた。
行きよりもずっとゆっくりだ。
座る際にカタンと立てた椅子の音が、いやに大きく聞こえる。
「こんな言い方したくないけどさ、そこまでする必要、あるんスか?」
「え……」
涼太の口調、冷たい……怒ってる?
さっき、仕方ない……って納得してくれた訳じゃ、なかったの?
でも、私だって何も考えずに結論を出した訳じゃない。
「あの、あきね、今すごく傷ついてて……出来るだけひとりで不安にさせたくないっていうか、おばあちゃんはいるんだけど、そうじゃなくて、今は近くに居てあげたいの」
「だからさ、それでみわの負担ばっかり増やしてどーすんの? オレにはそこまでする必要性が感じられないんスけど。あきサンだってもう子どもじゃないっしょ」
怒って、る。
怒らせてしまった?
手が、震える。
「私は負担なんて思ってないよ、だから」
「実際負担になるじゃないスか。怖くて電車で寝る事も出来ないし、男の隣に座るのだって出来ない。そもそも電車に乗るコト自体がすげえストレスになるのに?」
「……う」
涼太の……言う通りだ。
反論のしようもない。
「あきサンの不安って言うけどさ、それを和らげるためにみわが不安を抱えなきゃならないんなら、オレは絶対反対だから」
どうしよう……こんな雰囲気になるなんて思ってもみなかった。
涼太は賛成してくれるって、思い込んでいたから。
涼太は、その大きな手で私の手首を掴んだ。
「あきサンの彼氏がさ、みわの後つけてきて襲われたらどーすんの? こーやって掴まれたら抵抗出来んの?」
強い力。
ビクともしない。
男のひとの力に敵うわけないって、よく知ってる。