第79章 邂逅
「それでね……涼太に少し協力して欲しい事があって。もしあきの彼氏さんが涼太の所に来ても、何も知らない、で通して欲しいの」
彼が涼太の所にくる可能性はほぼ無いに等しい……けれど、最も身近な友人である私の恋人だと知っている以上、可能性はゼロじゃない。
巻き込みたく無い、という気持ちもあるけれど、そんな事も言っていられない事態だ。
皆に協力して貰わないと。
「あきサン、彼氏サンと揉めてんスか?」
あきは、涼太になら別に話してもいいって言ってた。
普段言い合いばかりしているふたりだけれど、根っこの部分は認め合っているんだろう。
でもやっぱり、辛い事……ちょっと、言いづらい。
「うん……ちょっと……あの、えっと、……DV、を、受けてて」
「DV? ……マジっスか」
優しい眼差しで事情を聞いてくれていた涼太の表情が一瞬で曇った。
眉間に刻まれた深い皺が、不快感を露わにしている。
「お祖母さんちに隠れるとか、そんなんで大丈夫なんスか? すぐバレる気がするっスけど」
「隠れるっていうよりも、あきはちゃんと別れ話をするつもりみたいなんだけれど、とにかく今は少し距離を置きたいって」
「ふーん……ま、あきサンがそう決めたってんならいいんスけど」
涼太は、ミョウガともずくのお味噌汁に口をつけ、美味いと言ってからぽつりと零した。
「長年付き合ったあのふたりが、そんな簡単に別れられるモンなんスかねえ」
涼太がぼそりと呟いたその言葉が、一番の懸念材料だった。
彼がどこまであきに執着するか。
正直、どんなに家を変えたって、大学やバイト先で待ち伏せされたら意味が無い。
あきの言う通り、ちゃんと別れないと解決しない問題なんだと思う。
「オレも協力するからさ、みわは首突っ込みすぎて無理すんのだけはやめて欲しいんスけど」
いつも首を突っ込みすぎる私。
ぐうの音も出ない。