第79章 邂逅
一瞬、自分の忘れ物かと思ったけれどすぐに考え直す。
こんな柄のポーチ、持ってない……よね。
涼太の持ち物……なのかな?
お姉さんとか……?
これ、確か北欧のブランドだったかな。
元気が出るビビッドカラーで、大きな赤い花柄。
あきが、確かこのブランドのファブリックパネルが欲しいって言ってた。
「あ……っ!」
そんな事をぼんやりと考えていたら手が滑って、ポーチごと落としてしまった。
ゴンと重い音がして床に散らばる中身。
ファスナーがちゃんと閉まってなかったみたいだ。
いけない、何やってるんだろう。
ごめんなさい! とこころの中で謝る。
一般的な化粧ポーチよりも少し大きめなそれから転がり出たのは……いくつかのボトル。
見ちゃいけないと思いつつ、目から入ってきた情報を遮断する事が出来なくて。
シャンプーとか、化粧水とか書いてある。
所謂、お泊りセットみたい……。
ドキンと心臓が大きく脈打った。
誰か、泊まりに……来たのかな。
ボトルの残量からして、新品じゃない、使いかけだったと思う。
あんまり見ないようにしながら小さいボトルを何本かポーチに仕舞って、最後に小さくて四角いビニール袋を2つ3つ拾い上げて……固まった。
それは、私もよく知っている……避妊具。
慌ててそれも仕舞って、ポーチを棚の奥へと押し込んだ。
なんか、見てはいけない物を見てしまった気がする。
バスケ部のマネージャーさんとか?
それとも、女友達?
やっぱり、お姉さん?
とにかく誰かが泊まりに来たみたい。
そんな事、言ってなかったよね?
でも、起こった事を全部私に報告する義務なんてないし。
涼太の交友関係にまで口出しするような立場じゃない。
あ……なんかちょっと、モヤモヤする、かも。
私いま、嫌な事を考えてる。
やだ、醜い。
こんな気持ちを持ちたくない。
涼太をそんな風に思いたくない。
料理しよう。
何かに集中すれば、この雑念も晴れるはず。
そこからは、キッチンで一心不乱に調理を進めた。