第79章 邂逅
しとしと……そんな擬音がぴったりな、霧雨。
勢いはないからと油断してると、結構濡れちゃうんだよね。
雨は嫌いじゃないんだけれど、お洗濯物が乾かないのが困る。
浴室乾燥機を使えばそれなりに乾く……けど、やっぱりおひさまに当てたくて。
明けて真夏になるのはあんまり嬉しくないと思いつつも、早く梅雨明けしないかなぁ。
今日は、午前中にカウンセリング……この事が頭にあったせいか、久しぶりにあの時の夢を見て目が覚めた。
行き場の無い気持ちと胸の不快感を一緒に吐いて、自己嫌悪に陥りながらもなんとか終わらせてきた。
夕方からは涼太のおうちに。
ちょっとお話しておきたい事があって、でも電話はどうかなって思って……。
もう数日後には涼太のお誕生日だというのに、このタイミングでいきなり約束をしてしまって、迷惑だったかな。
でも、お誕生日のような特別な日に、暗い話はしたくなくて……。
涼太は18時まで練習だ。
今日は私が先に部屋に来て夕飯を作る事になっている。
見慣れたドアの前で立ち止まって……深ーく深呼吸をした。
震える手でポーチの中から取り出したのは……合鍵。
ゆっくり、まるで初めての行為かのように鍵穴に差し込む。
更にゆっくりと回すと、ギギ、と金属が擦れる音と共に開錠された。
「あ、開いた……」
なんてバカな事を言ってるんだろうと気が付いたのは10秒後。
固まっていた身体を動かして、玄関のドアを開けた。
「お邪魔、しまぁす……」
涼太が居ないのは分かっているんだけれど、やっぱり言わずには居られなくて。
サンダルだけが置いてある玄関に足を踏み入れる。
雨が降っているせいで、室内は暗い。
手探りで電気をつけた。
買い物袋をキッチンに置いて、調理を開始……する前に、お手洗い借りようかな。
着けようとしたエプロンを一旦置いて、トイレへ入った。
いつも洗剤の詰め替えやトイレットペーパーが置いてある棚が目に入って、いつもなら別に気にしないんだけれど、ちらりと見慣れない物が見えたからつい気になってしまって、手に取った。
花柄の、ポーチ?