第79章 邂逅
「忙しかったのに、付き合ってくれてありがとう」
しおらしくチアキサンはそう言って、カバンを手に取った。
「“私なんて”って思いながらプレーすんのはチームメイトに一番メイワクがかかるから、やめた方がいいっスよ。チアキサンが現役かどうかも知らないっスけど」
「うん……そうね」
「じゃ、オレ帰るっス」
「ありがとう。それじゃ……あれ?」
チアキサンは鞄をゴソゴソと探り、その後にポケットやらなんやら、アチコチを探り出した。
「どしたんスか」
「やだ、携帯落としたかも」
「はぁ?」
一緒に歩いてて、落とした音には気付かなかった。
付近に落ちていないかと辺りを見渡すが、電灯の明かりが届かない範囲の方が広くて、すぐに諦める。
「涼太のマンションかしら」
「オレの? つか、呼び捨て!」
オレのコトを名前で呼ぶ人間は少なくないけど、突然の名前呼びはやはり気分のいいものではない。
「いいじゃない、私たちの仲なんだし」
「なんの仲にもなってないっスけど」
「まだ、ね」
彼女は整った顔を輝かせ、慣れた感じでウインクをしてみせた。
外見だけならモテそうなのに、彼氏いないんだろうか。
つか、まだって……これからもなんの仲にもならねえってば!
「ごめんなさいね、見つけたらすぐ帰るから」
チアキサンはキョロキョロしながらウチへの道を歩き出した。
さっさと見つけて帰って貰わないと、貴重な睡眠時間が!
んで結局、チアキサンの携帯はマジでウチの玄関ドアの目の前に落ちてた。
なんで気付かなかったんスかね、絶対それなりに大きな音がするハズなのに……。
「ありがとう。帰る前にトイレ借りて行っていい?」
「ハイハイ」
もう何を言われても驚かない。
彼女がトイレに入ってる間に風呂場に行き、給湯器のスイッチを入れた。
15分待てば念願の風呂だ。
ありがとう、またねという声が聞こえて、玄関ドアが閉まる音。
ゆっくりしようと思ってたのに、すっかり予定が狂ってしまった。
明日の確認もしたいし、風呂の前にみわに電話しとこ。