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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第79章 邂逅


気温がそれほど高くない筈なのに、今日は湿度が高いのかな。
じっとりと、纏わりつくような不快な空気だ。

「とりあえず、彼にちょっと暫く会えない、ってメールしておこうかな……言い方はちょっと考えるとして」

最寄り駅に降り立ったあきは、さっきよりもずっとスッキリしていて。
旅行で気分転換が出来たのかな。
心持ちが変わったのなら、行って良かったのかも。

「そうだね、あんまり波風立てないように……」

そう言いかけて、眼前に見えるマンションの入り口に人影を見つけた。
……あれは。

あきの、彼だ。

「あき、おかえり」

いつ帰るかって、言ってあったのかな……それとも、ずっとここで待っていた?
ゾッと、冷たいものが背筋を駆け上る。

「……ただいま」

「楽しかったかい? 丁度通りかかったから、顔を見てこうかと思って」

「……」

エントランスの光が逆光になって、ハッキリと表情が見えない。
ううん、このひとの表情は表に出ているものだけじゃない。

「元気ないね、あき。何かあった?」

「あ、あの」

「……みわさん、どうしました?」

「あの、今日はもう疲れているので……申し訳ないのですが、お引き取り願えますか。もう遅いですし」

やっぱりちょっと、行き過ぎているよ。
彼の言葉には、あきを支配したいという願望が見え隠れしている。
言葉遣いは丁寧だけれど、その音は高圧的だ。

「……あきは、どうだい?」

「……あたし、は」

ほんの一瞬、間が空いて。

「ごめんね、流石に新幹線移動は疲れちゃった。悪いんだけど、また連絡するから」

「あき」

「また、連絡するから」

あきは、強調するように一音一音を発した。

今度は彼側にわずかな間があって。

「……分かった。待っているよ」

にっこりと微笑んだまま、彼は踵を返した。
この空中戦のようなやり取りが、私の中の危機感を増幅させた。


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