第25章 勉強だったり合宿だったり新学期だったり
新しい席に着くと、最後列から見える景色は今までのものと全く異なっていた。
更に、これからは隣にみわっちがいると思うと、退屈だった授業も楽しみにすら思える。
たったこれだけの事で、まるで世界が変わったかのような気分になれるのだから、席替えひとつといえど、侮れないものだ。
席を移動すると、若干困惑したようなみわっちが既に移動を終え、オレに視線を送っている。
「よっ、よろしくね」
ちょっと声が上ずっている。
嬉しかったのはオレだけではないと、そんな部分からも察することが出来て、オレも思わず口元が緩んだ。
「よろしくっス!」
しかしそんなオレたちの温かい時間をぶち壊すように、テストが配られ始める。
連日の補習なんて、マジでシャレにならない。
中学時代にはそこそこだった勉強も、高校に入ってバスケに集中するようになってからは、ついていけない授業が増えてきてしまって。
寝てたりバスケの事ばっかり考えてるからかもしれないっスけど……。
だから、こんなオレに付きっきりで勉強を教えてくれたみわっちには、本当に感謝している。
彼女の頭脳からしてみたら、オレの理解度なんて珍獣の域を出ていないかもしれない。
勉強ではてんで自信のないオレに、みわっちが小さな声で囁く。
「あれだけやったんだから、大丈夫。焦らず、ゆっくりね」
緊張を覚えている耳に、その音はひどく柔らかく染み込んできた。
よっし、もうどう足掻いても、出来ることしか出来ねーっス!
そんなこんなでテスト漬けの午前は終わり。
今は、いつもの旧図書室でみわっちと昼ご飯を食べている。
「どうだった、テスト」
責めるわけでもない、好奇でもない、純粋にどうだったかと聞いてくれているのが分かる。
あれだけ教えたんだから、ちゃんと出来たんだろうな?という意味を孕んで聞く権利がみわっちにはあるのに。
「……やれることは、やったっス」
「そっか」
みわっちは微笑んでそれだけ返して食事の続きに手を付けた。