第79章 邂逅
「それで、卒業間近に彼からプロポーズされたの。でも、全然嬉しくなくてさ。それは、私を縛っておくための手段だって、分かってるから」
彼からプロポーズされて、と言っていた時のあきを思い出す。
そっか……だからあんなに浮かない表情だったんだ。
「断った……の?」
「うん、断った……保留って言うのかな。あたしにはまだまだやりたい事もあるし、悪いけど今すぐには考えられないって。まさか断られるとは思ってなかったみたいで、ちょっと固まってたけどね」
「そうなんだ……」
「だから、理由つけて彼から離れたかった。あんたと一緒に暮らせば、と思ったのもホント。ごめん、利用したみたいで」
「ううん、利用されたなんて思ってない。頼って貰えたなら嬉しいよ」
悩んで困った時の選択肢にして貰えて、嬉しい。
こんな時にそんな感情、不謹慎かもしれないけれど、嬉しい。
「普段はね、いつも通り仲良しなんだよ。でも時々、殴られる。罵られる。なんか下半身に違和感を感じて目を覚ましたらナマでヤられてたとか、何回もあって。怖くてピル飲み始めて。おかしいでしょ、常軌を逸してるでしょ」
「……」
その状況に驚きすぎて、何も言えなかった。
でも、あきは私の表情を見て、気持ちを分かってくれたみたいだ。
「なんか分かんなくなってきちゃったんだ。彼の事好きなのか、もう好きじゃないのに怖いから離れられないのか、全然分かんないんだよ」
ぽつり、そう漏らした語尾は少し呂律が回ってない。
「あー、ごめん、酔ってきたかも。やっぱり疲れてるとダメだね、回りやすくて」
何も、言ってあげられない。
別れた方がいいとか、やり直すために頑張ろうとか、言ってあげられない。
そんなに簡単に踏み込めるほど、あきの傷は浅くない。
分かる。それだけはハッキリと分かる。