第79章 邂逅
「ん? 美味い店? またそんな抽象的な」
「ご、ごめんなさい。ゆっくりお喋り出来そうなところ……がいいかな。ちょっと、疲れてるお友達の話を聞いてあげたくて」
休憩時間、閑田選手に声を掛けられたついでに(ついでに、なんて失礼だけれど……)、夜あきと行くお店をリサーチ。
周りを気にせず話が出来るお店がいい?
あきのこころの疲れが少しでも取れるお店って、どんな所があるだろう?
「何、そんな深刻な話すんの? こっちに住んでる友達?」
「あ、いえ、東京の友達で、今ちょっと気分転換に旅行に来ていて」
「ふーん。……じゃあ串カツでも食いに行ったら? 美味いよ。カウンターだけじゃなくて、テーブル席ある店もあるし」
「串カツ……美味しそう。ゆっくりお話し出来ますかね」
「いや、逆かな。ざわざわして落ち着かない。深刻な話には向いてないよ」
「……え?」
え……っと?
今、お話が出来るお店……と相談した筈……だよね?
「何の話かはわかんないけどさ、わざわざ旅行先まで来て話さなくてもいいんじゃないの」
「あ……」
そうだ。
彼の言う通り。
リフレッシュしに来てるのに、わざわざ嫌な事を思い起こすような事して、どうするの。
……私が、満足したかったからだ。
あきの話を聞いて、相談に乗ってあげて、って"何かしてあげたい"って欲を満たそうとしたからだ。
なんて、ずるいんだろう。
大切な友達が悩んでるのに。
「いや、そんな顔しないでよ。聞いてあげたいって気持ちはあっていいんじゃないの。ただ、好きな友達と美味い飯食ってりゃ、そいつにとっても最高の時間を過ごせるよ。それで、その友達とやらが話そうと決めたんだったら、場所なんてどこだっていいだろ」
好きなひとと美味しいご飯。
うん、それだけで幸せだ。
私、大切な事を忘れてた。
大切なのは、あきだ。
今は傷付いてるあきの気持ちを一番に考えてあげたい。