第79章 邂逅
「ごめんね、あき……咄嗟に変な事言って。嘘つかなきゃいけなくなっちゃって……」
あきは顎に手を当てると、少しだけ考えて顔を上げた。
「いや、行くわ、ひとり旅。成人したらなんかしたいと思ってたし、ちょっとひとりで考えたい事もあったから丁度良かったかも」
迷う様子もないその発言に、自分でも目が丸くなってるのが分かる。
そうだ、あきは既に20歳になったんだった。
「そんな、もう来週末の事なのに大丈夫?」
「大丈夫っしょ、これから宿探すし。ひとりなら結構空きがあるもんだよ」
変なの、なんだか凄く大人の女性になった気がする。
「あの、みわがお世話になってるんですよね。すみません、突然。話合わせてくれてありがとうございました」
あきは、立ち上がるとマクセさんに向けて深々と頭を下げた。
「いや、神崎が困ってるようだったからな。特段何か凄い事をしたわけではないよ。役に立てたのなら何よりだ」
「ありがとうございます、マクセさん」
「とはいえ、まだ暫く彼は近くにいるだろうから、少しゆっくりさせて貰おうかな」
「えっ?」
「いるよ。俺がすぐ出てくるか、暫く見張っているはずだ」
「どうして……分かるんですか?」
どうしてそんな事、分かるんだろう。
あきは何も言わない。
特に驚いた様子もないし、反論する気配もない。
「歪んだ自己愛の持ち主みたいだからね」
「歪んだ……自己愛」
あまり、ピンとこない。
どういうひとの事を言うんだろう。
「キミの彼氏かい?」
「はい……あたし、あきです」
「あきさんか。ああいう男は、突然豹変してモラハラや暴力に走ったりするから、十分気を付けた方がいい」
ピッタリのその指摘に、言葉を失う。
あきは小さく頷いて、そうですねとだけ答えた。