第79章 邂逅
「あ、もう金曜までは時間が合わないですし、今打ち合わせしたいです。大丈夫です、私は」
出来る限り自然さを装って言ったつもりだけど、だいぶ早口になってしまった。
顔にも出していないつもりだけど……出てるかもしれない。
ううん、多分出てるんだと思う。
ちらりとあきの様子を窺うと、あきはゆっくりまばたきをして……彼に向けて口を開いた。
「ごめん、今日はこのまま打ち合わせするからさ、今日は帰って貰ってもいいかな」
「……打ち合わせ? 何のだい?」
「……」
あきは黙ってしまった。
それはそうだ。彼女はバスケにはなんの関わりもないし、私がやっている事だってそんなに詳しくは知らない。
咄嗟に話を合わせられるだけの材料がない。
……ごめん、あき!
「あの、来週土曜に大阪に行くので、その打ち合わせです!」
「……大阪? あきも入れて、ですか?」
「そうです、3人で、です!」
「旅行、という事でしょうか?」
この3人で旅行なんて、おかしな話すぎる。
何か、あきに手伝って貰えるような仕事はあっただろうか。
ああ、嘘って本当に苦手だ。
「いや違うよ、みわ達は仕事。あたしはひとり旅」
サラッと、あきがそう言った。
まるで、決まっていたかのような、自然さ。
「……ひとりで旅行? 言ってくれれば、都合つけたのに」
「いや、最初は大学の友達とって話してたんだけど、急遽法事が入ったって、行けなくなっちゃって。ギリギリだったから、今更言うのもなって思ったんだ」
「……そう」
「ごめんね、折角来てくれたのに」
「いや、いいよ。いきなり来たのはこっちだ。また連絡する」
彼は怒るでもなく理由を聞くでもなく、そうとだけ言って出て行ってしまった。
慌てて追いかけ、玄関の扉が閉まるのを確認してから鍵をかけた。