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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第79章 邂逅


あきと彼をダイニングに通して、私はお茶を淹れる。

疲れた時に気持ちが落ち着くようにと、以前涼太が買って来てくれたハーブティー。
ビー玉みたいなキレイな黄色と、スッと呼吸の仕方を思い出させてくれるような柔らかい香りが大好き。

「どうぞ」

「ありがとう。いただきます」

うっすら微笑んで、彼は背筋を伸ばしたまま耐熱ガラスのマグカップに口をつけた。
感情の揺れは感じられない。会った時と同じ、落ち着いた雰囲気なんだけど……
前に一度会った時には、こんな風に感じなかった。
なんだろう、この違和感。

「今日はふたりでどこに行っていたんだい?」

「あ……うん、新宿で、ご飯食べてた」

「ふたりで、だね?」

「うん」

「間違いないね? 嘘はないね?」

「ないよ」

「……あき、帰る前に少しだけ部屋でふたりで話そうか」

「……うん」

ふたりとも、早々とマグカップを空にし、立ち上がった。
また、ゆっくりと部屋に向かっていく。

分かった。
支配、だ。

思い出したくもない……けど、私がかつて、あの男に身体も心も支配されていた時と同じ。
逆らう事を許さない絶対的な雰囲気、っていうのかな……。

でも、どうして?
あきと彼氏さんは、結婚の話まで出ていて、うまくいっている筈なのに……。

ダメだと思いつつ、マナー違反だと分かりつつ、そっとあきの部屋のドアに耳をつけた。

中の会話が筒抜け……になるわけはなく、途切れ途切れ、聞こえる程度だ。

低い声……多分、彼氏さんだろう。
彼氏さんが長い事話して、時々あきが相槌をうつ。
そんな感じで少しの間話していて……

突然、ガタンと大きな音が響いた。

驚いて思わずドアから離れた……けれど、その音が一度聞こえたきり、訪れたのは沈黙。

何、何の音?
まるで、ベッドからひとが転がり落ちたような……

これは、ふたりの事だ。
私が首を突っ込んでいい問題じゃない。

分かってるんだけど、でも今ここにいるのは私だけ。
あきに何かあったら、助けられるのは私だけだ。



深呼吸をひとつして、ノックはせずにドアを開け放った。


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