第79章 邂逅
「あき、ごめんね。あまりに何回も着信があるものだから、急ぎかと思って……彼氏さんからの電話、出ちゃったの」
それなのに、結局お話は出来てないとか、どれだけ役立たずなんだ、私。
「でもね、応答押したんだけどうっかりソファに落としちゃって……その間に切れちゃってたの」
「あ、そーなん? ありがとね」
あきは軽くそう言うと、スマートフォンの画面に触れた。
そして、一瞬……ほんの一瞬、固まったように止まった。
「あの、急ぎだったみたいだし、掛け直していいよ、私先に出とくから」
「んーん、いいよ。後で掛け直す」
そう言うと、スマートフォンを鞄にしまってしまう。
……あきがそう言うなら、いいんだけど……。
あきの希望で、最寄駅前のカフェでコーヒーを1杯飲んでから家路についた。
まだ5月なのに、日によっては夏のような日差しが降り注ぐ事も増えて来て。
ああ、また季節が変わるんだなぁなんて思っていたけれど、朝晩はやっぱりまだ少し冷える。
薄手のカーティガンを羽織って、時計を確認。
あと1時間もしないうちに、日が変わっちゃう。
今日は久しぶりに、遅くまで遊んじゃったな。
あき、少しでも気分転換になったかな。
もうマンションは前方に見えてきている。
なんとなく、家が見えるとホッとする。
でも、気になるのは……
「あき、彼氏さん……大丈夫かな、急いでないのかな」
あきは結局、カフェにいる間も一度もスマートフォンには触れなかった。
「ん、大丈夫大丈夫。いつものことだから」
いつものことって、あの電話の嵐が?
やっぱりちょっと、普通じゃない気がする。
「あの、あき、」
思い切って聞いてみようと口を開いたけれど、マンションのエントランスが目に入って、思わず歩みを止めた。
「おかえり、あき」
スーツ姿のあきの彼氏さんが、立っていたから。