第79章 邂逅
お手洗いから戻ってくると、あきはスマートフォンの画面に視線を落したまま、微動だにしていなかった。
この光景、どこかで……そう言えば、この間閑田選手と牛丼屋に行った際、私が涼太と電話を終えて帰ってきた時に彼も同じような表情で画面を見つめていた。
あの時の彼も、何かに悩んでいたんだろうか?
「お待たせ。あきはトイレ大丈夫?」
「あー……そだね、行ってこようかな」
目を合わせないまま、あきは席を立って行ってしまった。
お会計のお金を準備しておこうと、伝票を手に取ろうとして……突然、机の上に置いたままだったあきのスマートフォンが振動しだしたので、飛び上がりそうな程に驚いた。
騒ぐ心臓を抑えながら見た画面には……あきの彼氏の名前が表示されている。
タイミング悪かった。今行ったばかりだし、お手洗いは店の外にあるから、戻ってくるまでにはまだ暫く時間がかかるだろう。
結構な時間振動を繰り返し、ピタリと止まった。
急ぎだったのかな? ずっと鳴ってたけど……。
と、思った瞬間、またスマートフォンは振動しだした。
画面には……また、あきの彼の名前。
もしかしてやっぱり、急ぎの用事!?
一度お会いした事があるだけなんだけど……どうしよう、出た方がいいのかな。
ああ、悩む。どうしよう。
オロオロしていたら、また振動は止まった。
さっきよりも短い時間だったから、急ぎじゃなかったのかな……?
と、思ったのに、また彼からの着信。
ちょっとこれは只事ではなさそう。
だいぶ迷ったけれど、代わりに出る事にした。
あきが座っていた向かい側のソファに移動しながらスマートフォンを手に取って、応答ボタンをスライドした途端……背中に衝撃が走った。
「あー、すんません」
「すっ、すみません!」
シャツ姿の男性が歩いて来ていたのに気が付かずに、ぶつかってしまったようだ。
あきのスマートフォンも飛ばされてしまい、ソファの上に転がっている。
男性達はビックリするような大声で話しながら、店の外に出て行ってしまった。
慌てて画面を見ると、既に通話は終了してしまっていた。