第2章 痴漢
男性が、怖い。
日頃から男性との接触は極力避けているけれど、
朝の電車だけは、どうしようもなくて……。
登校するために乗らなければならない電車は、通勤の主要路線だからか、朝早くから夜遅くまで、絶えず混んでいる。
入学前にきちんとチェックしておかなかったのは失敗だった。
家の最寄り駅から学校最寄り駅までは40分。
緊張しながら、毎日乗るのにも疲れてきてしまって……。
どうせ今も1人暮らしだし、学校の近所で安い部屋を探そうか。
でも、引っ越すとなればお金がかかる。
どうしたらいいかな……そんな事を考えていたら……
お尻に違和感を感じた。
これは……手?
生温かい感触。
混んでいるから仕方なく当たってしまう、という感じではない。
人から死角になる方向から、ぴったりと密着するそれは、
ゆっくりと……まさぐり始めた。
背筋が凍る。
ち、痴漢だ。
どうしよう……!
手が震える。
声が出ない。
隣に立っているサラリーマンは、イヤホンをしているし、手元のスマートフォンに夢中だ。
どうしよう……どうしよう……
誰か……
願いは虚しく、抵抗されないと安心したのか、手はどんどん大胆に動き始める。
もうすぐ次の駅。
駅に着いたら、他の車両に逃げよう。
でも、ドアが開くのは反対側。
うまく、逃げられるだろうか。
逃げようと構えていたのに、停車の際の揺れでバランスが崩れた。
下車する人の流れに押されて、このまま車外へ出れると思ったのに……ガシリと腰を掴まれた。
動けない。
突然の出来事に言葉を失う。
そうこうしているうちに周りのひとはどんどんと下車していき、私はそのまま反対側のドア前の角に追い詰められてしまった。
迂闊……私のバカ!
どうしよう。
……勇気を出して、声を出すんだ!
やめてください、って!