第79章 邂逅
結局、教授の姿が見えないまま、時間だけが過ぎていって……その内に、飲み放題の制限時間が来て、あっという間に店の外に出る事になってしまった。
どうする? 二次会行く? なんて盛り上がってる。
「神崎さん、行く?」
「い、いえ、私はもう帰ろうかなって思って……今日、教授はいらっしゃらないんですか?」
「え? 教授って?」
パッチリとしたまつげの彼女は、全く心当たりのないというような表情。
あれ……タケさんに誘われた時、教授が来るから出席しないと失礼って聞いたんだけど……。
「あ、なんでもない……です。今日は私、帰りますね」
普段、皆とあまり会話をする機会もなくて、正直何を話して良いのか分からなくて。
もう夜も遅いし、今日は帰った方が良さそう。
「分かった! またね、神崎さん」
ニッコリと微笑んで手を振ってくれる彼女に手を振り返して、振り返ろうとした瞬間。
「あれー、神崎さん、帰んの?」
例のタケさんから声を掛けられた。
輪の中心に居た彼は、私が帰ろうとしたのを見つけたらしく、小走りで駆け寄ってくる。
「すみません、今日はもう遅いし帰ろうと思って」
「えー、マジでー? 俺、神崎さんともっと喋りたかったのにさ」
「す、すみません……」
さっきの居酒屋でも、彼とは殆ど話していない。
出来るだけ男性の近くに座らないように、女の子が集まっている所にばかり居たからだ。
懇親会というからには、もっと皆と色々コミュニケーションを取らなきゃいけなかったのに、つい……。
反省。
今度からは、ちゃんとそういう所も気を付けないと。
自分の感情だけで人付き合いをしていい年齢じゃないんだ。
「じゃ、残念だけどまた誘うよ。俺さ、正直神崎さんの事、気になってんだよね」
「え?」
「またね」
彼は、明るくそう言うと、また皆の輪に戻ってしまった。
どういう意味だったんだろう……?
少しの疑問を残したまま、足を駅に向けた。
「タケ、珍しいじゃん。あーいうのタイプ? もっと派手な子の方が好きかと思ったよ」
「ちげーよ。ああいう男経験ない子の方が、やっちゃった後に泣き寝入りするからチョロいんだって」