第79章 邂逅
週末の居酒屋。
人数が多いというのと、教授がお酒が好きだということで、この店に決めたらしい。
ざわざわ途切れる事のない喧噪と、たばこの煙の臭い。
あんまり、得意じゃないな。
「神崎さん、何飲む~?」
「えっと……」
手渡されたメニューに目を通す。
あれ?
上から下まで見渡しても、知っている名前がない。
モスコミュール?
ジントニック?
あれ……これって。
「あ、これ、お酒のメニュー……? あの、ソフトドリンクのメニューはどこですか?」
メニューを手渡してくれた彼女……明るくて、人気者。
いつも手入れされた茶色い髪は綺麗に巻いてあるし、洋服もオシャレ。
華があって、周りにいつも人が集まっている。
「あー、大丈夫大丈夫! 飲んじゃって平気だよ!」
「……へ?」
「ここね、そういうのに優しい店だから! タケ君の知り合いがやってるみたいだよ」
タケ君、というのは確か、彼女と同じように人気者の男の子だ。
よく女の子とふたりで話しているところを見かける。
私は、挨拶くらいしか交わさないのだけれど。
「でも、お知り合いだからって、それはまずいんじゃ……まだ未成年だし……」
「大丈夫だって! 皆の雰囲気壊しちゃだめだよー!」
皆の、雰囲気。
十数人のメンバーは、楽しそうにお喋りしてる。
どうしよう、こういう時って。
でも、流されていい問題じゃない。
「……ごめんね、雰囲気は壊しちゃうかもしれないんだけれど、やっぱりダメなものはダメだと思うから。ソフトドリンクにしよう」
私の声が聞こえたらしい数人から、なになに?と声が上がり、視線が集まる。
「じゃあ、神崎さんはジュース飲めば? あたし達は大丈夫だから飲むよ」
「ダメだよ、皆……」
食い下がる私に、彼女は大きなため息をついた。
「……分かった。じゃあ皆ジュースにするから。神崎さんは何にする?」
「あ、じゃあ……ウーロン茶で、お願いします」
店員さんが来て、皆の口から出て来たオーダーはソフトドリンクばかりで安心した。
言い方、悪かったかな……。
こういう雰囲気、苦手だな……。