第79章 邂逅
「あ、涼太がおすすめしてくれたこのお茶、すっきりして美味しい」
「暑くなってきたから、いいっスよね」
「うん、ほんのり甘いのもなんだかホッとする。教えてくれて、ありがとう」
彼女の手の中にあるのは、一見麦茶のような色の液体。
正体はシトラスティー……少し甘いグレープフルーツティー、という表現が一番近いか。
飲み口はスッキリしていて、でも甘さもあって……今のみわの心境には一番合うかもしんないと思って。
オレはザクロジュースにした。
ちょっと甘酸っぱさが恋しくなったから。
お互い、少しの間ドリンクを味わって、一緒に頼んだワッフルを口に運び……そしてほんの小さなため息を漏らしたみわが、語り出した。
「……あのね、小学校の同級生が、いたの」
だけど、その内容はオレが想像していたそのどれとも違ってて。
まさかの、小学校の同級生?
「え……どこかで、会ったんスか?」
「うん、会ったっていうか、今行ってるK大バスケ部の……選手なの」
「マジスか」
「うん」
普通なら、そうなんだ奇遇っスね、で済む話題だ。
でも、違う。みわの場合は、それじゃ済まない。
みわには、小学生の頃の記憶は殆どない。
誰も知らない、空白の記憶。
その相手から、なんてことない感じで過去の話をされたら、どう思うだろうか。
想像しか出来ないけど……なんか、モヤモヤして気分が悪くなりそうだ。
自分だけが分からない、目の前の相手が言っている事が本当なのかどうかも分からない。
グルグルと不安だけが渦巻いてしまうかもしれない。
みわの疲れた顔の原因はそれだったのか。
「過去の話、あんまりしないようにしたら? そんなにしょっちゅう話す機会があるんスか?」
いい解決法がすぐに見当たらなくて……そんなの、一時凌ぎとは分かっているんだけど。
「うん、今は昔の話をする事は減ったんだけど……やっぱり、私の家族の事を知ってるっていうのが、気になって」
「みわのお父さんやお母さんのコト、知ってるってことっスもんね」
「うん……あと、お姉ちゃんが、いたって」
「え?」