第79章 邂逅
「この間さ、悩んでたじゃないスか。なかなかコミュニケーションがうまく取れないヤツがいるって。その後どうなんスか?」
もしかして、それでまだ悩んでいるんだろうか。
みわは、良くも悪くも入れ込みやすいから……。
彼女の長所でもあるんだけど、引きずられすぎも良くないと思うし。
「うん、この間は本当にありがとう。少しずつ、少しずつだけどね、うまく出来てるかも」
いつもの優しい笑みがこぼれて、ホッと安心した。
元気がないのは、それじゃなかったのか。
「やっぱ、長距離移動が続くとキツい? みわ、すげー疲れてるみたいっスけど」
もう、遠回しに探るようなコトはしたくなくて、ストレートに聞いた。
みわは、驚いたように頬に手のひらを当てる。
「え……ごめんなさい、私、そんな風に見える?」
やっぱり、今日の態度には全く自覚がないみたいだ。
「いや、謝ることないんスよ。慣れない事すると疲れるでしょ。今日はもう帰ろっか。送るっスわ」
残念だけど、みわの体調が優先だ。
また、来月会えるんだし。
「ち、違うの!」
「ん?」
「疲れてるとかじゃ、なくて……ちょっと、悩んでる事が、あって」
みわは、言い辛そうに視線をテーブルに落とした。
濃い木製のテーブルは、声を反響することなく、柔らかく受け止めてくれるような温かみがある。
この店にして良かったかもしれない。
なんとなく、ここは深刻な話でも気負わずに出来そうな雰囲気だ。
「悩み事? オレが聞いても問題ない?」
「うん……というか、まだ自分の中でも全然整理がついてなくて」
また、荷物が増えてしまったんだろうか。
みわは、自分の声が掠れてしまっている自覚もないみたいだ。
「じゃ、ゆっくり整理しながら話して貰える? お茶一杯追加で頼んでさ」
彼女の代わりに返事をするかのように、空になったグラスの氷がカランと鳴った。