第79章 邂逅
「……ふーん」
閑田選手はそれ以上、聞かなかった。
彼の手の中には、アイスのドリンク。
薄い茶色の液体の上に生クリームが乗っていて、とっても甘そう。
……身体、冷えないかな……。
「原因が分かってないって事は、治るかも分かんないって事だよな?」
「……はい」
「どーすんの?」
「どう、とは?」
「過去を何にもなかった事にして生きるなんてのは、不可能だろ。だって、それがあってこその今のみわなんだからさ。みわに彼氏がいるのが本当なのかどうなのか分かんないけど、そういう事話し合ったりしないわけ?」
「話し……合ったり」
「どうすんの、許容できないような過去があったりしたら。相手の男が全部受け入れられるとは到底思えないけど」
彼が何を言っているのかは、よく分かる。
そして、これは正しい意見だと思う。
涼太が、今までの私の過去をひっくるめて受け入れてくれているのは、本当に信じられないくらい、恵まれた事だって、分かってる。
だから私は彼の優しさの上に乗っかる事は絶対にしてはいけない事だと思うし、いざという時は……きちんと引き際を見極めなきゃいけないと思ってる。
「分からないけど……その時は、その時。ちゃんと真っ直ぐ向き合って、最善の答えが出せればいいと思っています」
今は、これしか言えない。
過去も分からない。
未来も見えない。
だから私は、今を見つめるしかないんだ。
「ふうん。そういうトコは姉妹似てるんだな」
……え?
「姉妹、ですか? 誰の?」
さらりと閑田選手の口から出た単語は、あまりに自分に向けられた事のないもので。
「誰のって、この流れで他に誰がいるんだよ。みわ、姉ちゃんは今どこに住んでんの?」
いつかの夢に出て来た……少し汚れたパンダのぬいぐるみを持った私の隣に居た、うさぎさんのぬいぐるみを持ったひとは誰だった?