第79章 邂逅
「ありがとう……涼太。カッとなって、見失ってたのかも」
私、閑田選手から何も聞こうとしてなかった。
彼から発せられる言葉に反応するばかりで、彼がどうしてそんな事を言うのか、彼はどうしたいのか、ちゃんと聞いてない。
彼の言葉の裏側が読めなくて当然だ。
私は、何も理解しようとしてなかったから。
『みわがカッとなって、って珍しいっスね。なんか変な男にちょっかいかけられてるんじゃないっスよね?』
だから、どうしてこのひとはこんなに鋭いんだろう。
えっと、なんて返せばいいのか……
『もしそんなヤツが居たらオレ大阪飛んでくからすぐ言って。ぶっ飛ばしてやる』
一瞬で声色が変わって、ゾッとする。
いつもの柔らかい声音じゃない。
彼の中にある、冷たい彼。
「ううん、それは大丈夫。そんなんじゃないから大丈夫。私、ちゃんと向き合ってみる。また……相談しちゃうかもしれないけど、いいかな」
『オレはいつでも聞くっスけど、マジでなんかあったらすぐ言うんスよ。迷惑掛けるとか、そーゆーのないからね、マジで』
「うん、ありがとう。いつも本当に……ありがとう」
ありがとう。
どうしてこれ以上の言葉がないんだろう。
いくら言っても、何度言っても足りない。
どれだけ言い続けても、満足出来る気がしない。
きっとこれから先もずっと、この気持ちは変わらない。
少しでも、私にできる事で恩返ししていくしかないんだ。
名残惜しさがありつつも、通話を終えて店内へ戻った。
閑田選手はスマートフォンを見ていたらしい。
画面を触るでもなく、何かを眺めている。
「あ、オカエリー」
「お待たせしました」
「んじゃ行こうか」
「……はい」
私がすんなり承諾したのが意外だったのか、彼は一瞬目を丸くした。
私らしく。
カフェの店内はお客さんでいっぱいだ。
店内奥のテーブル席を確保する事が出来た。
丁度隣はトイレで、観葉植物が席と席の間にあるから、会話もそれほど筒抜けではない。
メニューが沢山すぎて訳が分からず、とりあえずホットのカフェラテを購入して彼と向かい合った。