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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第79章 邂逅


「いきなり席立って帰るって、そりゃないだろ。流石に俺だって、そんな事されたら傷つくんだけど」

言われて、やっと気が付いた。
彼の言う通りだ。
食事についてきたのは自分なのに、突然先に帰ると言い始めて……彼に失礼だ。
断るなら、ちゃんと話して断るべきだったのに。

「すみません……あの、座るので、離してください、手」

手の震えには気付かれていない筈。
私が荷物を再び椅子の上に置いたのを見て、彼はようやく手を離してくれた。

「みわさ、オトコ知らないんしょ」

「え……」

「全然慣れてないって感じだもんね。いいよ、別に恥ずかしい事じゃないし。オトコは経験少ない女の子の方が嬉しいもんだよ」

グサリ、何気ない言葉が胸に突き刺さる。

「……いえ、私お付き合いしてる方、いるので」

「あーそっか、イケメンの彼氏ね」

はいはい、と言って笑う姿……彼は、何をしたいんだろう。
とても、私と友好的な関係になりたいとは思えない。
彼の言葉の裏側が、読めない。

「とりあえずさ、申し訳ないと思うならお茶一杯付き合ってよ」

クイ、と彼が親指で指した……店外後方には、緑のロゴが特徴的な人気のカフェ。

観念して頷こうとした途端……ポケットの中から振動を感じた。

この長さ……メッセージじゃない、着信だ。
画面は見てないのに、誰からの連絡か、なんとなく分かってしまった。

「すみませんあの、電話かかってきたみたいで……ちょっと待っていて貰えますか」

「荷物置いて行くならいいよ」

慌てて立ち上がった私を牽制するようなその言葉。
言葉もなく頷いて、店外へ向けて走った。

「も、もしもし!?」

『みわ? 今忙しかったっスか?』

やっぱり、スピーカーの向こうから聞こえてきたのはいちばん聞きたかった声で。

「ううん……牛丼、食べてたの」

『そうなんスか? ひとりで? てっきり皆とメシ食ってんのかと思ったけど。節約とか言って単品食いはダメっスよ。みわは自分のコトになると無頓着だから』

耳の中に流れていく音が心地よすぎて、頬を伝う熱いものに気付いたのは、暫く経ってからだった。


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