第79章 邂逅
留学生なのか、外国人の店員さんが牛丼を運んで来てくれた。
牛丼屋さんの提供速度のあまりの速さに毎回驚く。
あらゆる角度から無駄を省いているんだろうな……。
備え付けの箸を手に取り、ひとくち分を胃に収めてから、一息で言った。
「今日はこの後、やらなきゃいけない事が沢山あるので、ホテルへ直行です」
「やらなきゃいけない事ってどんな事?」
う、来た。
苦手な、この感じ。
正面から真っ直ぐ射貫くように見つめてくるのは涼太と同じなのに、その瞳が孕む感情は全く異なるもの。
でも、引力が……強い。
何を言っても、受け入れて貰える気がしないこの感覚。
「今日の練習メニューと考察とか、各選手の状態をまとめたりとか……」
「じゃあこれからカフェにでも行こうよ。そこでやればいいじゃん」
ちょっと、待って。
なんでそうなるの?
「あの、ひとりの方が集中できるので」
「俺は全然大丈夫だけど。明日の練習はそんなに朝早くないし」
「いえ、私はひとりの方が」
「俺もそのデータ見たいな。明日からの練習に生かせそうだし」
練習に……生かせる事が出来る精度には程遠いと思う。
もっと、こういうデータはデータ量が増えてから、そして選手との信頼関係が築けてから本領発揮すると思うから。
どうしよう、どうしたら伝わるんだろう。
……ううん、違う気がする。
伝わってるんだ、多分。
そのうえで私が断れないような言葉選びをされている。
とりあえず、残りの牛丼を全て平らげ、薄い麦茶のようなものを流し込んだ。
気付けば、彼はもう既に食べ終わっている。
セットメニューを注文した筈なのに、速い……。
「私、お先に出ますね」
荷物を持ち席を立って、伝票を取ろうとした手を……掴まれた。
「待ってってば。金返してないじゃん」
「あの、明日でいいです。私、帰ります」
「俺はまだ一緒に居たいんだってば」
「本当に、帰ります。離してください」
手を振りほどこうとしても、ビクともしない。
この状況、否が応でも思い出したくない記憶を炙り出して来る。