第79章 邂逅
「みわはさ、イケメンな彼氏とこーゆー店でデートすんの?」
「いえ、そういう訳じゃないんですけど……」
連れられて来た駅前には、居酒屋ばかりが立ち並んでいて。
出来るだけ酔ったひとと関わり合いになりたくなくて、適当なお店を指差した。
ここは、日本人なら誰でも分かる、大手牛丼チェーン店。
カウンターでもいいって言ったけど、断固拒否されてテーブル席に向かい合わせで座った。
「じゃあなんで牛丼屋!? もっとなんつーか、ロマンチックなとこあるだろって!」
「いえ、あの、牛丼食べたいなと思って」
「酷い棒読み」
「え、あ、あの、すみません……」
だって、これはデートじゃない。
普段私が涼太としているデートの行き先も、わざわざ言うつもりもない。
早く食事を終わらせて、帰ろう。
テーブルに設置されているメニューを手に取った。
「みわは何にすんの?」
「えっと……この、おろし牛丼のミニサイズを」
「セットは?」
セットメニューの欄を見ると、ひじきの煮物が入った小鉢や豚汁、冷奴などが付いたセットや、サラダ付きのセットなどが多数書いてある。
……今月はちょっと節約したいし、いいかな……
「あの、セットはいらないです」
「万券いらないって言うから、みわはすげー金持ちなんかと思ったよ。貧乏学生なの? どっち?」
「う、貧乏です……」
いや、お金に余裕があるからいらないって言ったわけじゃなくて……もうこれ以上、乱されたくなかったから。
道理で収入・支出が合わないと思った。
簡単だけど、おうちでつけてる簡単な家計簿は嘘をつかない。
でもそれも最近忙しすぎて、本当に簡単なものになってしまっていて。
きっとどこかで計算を間違っていたんだろうなんて諦めていたんだけど……まさかこんなところに原因があったなんて。
「今日はこの後さ、どうすんの?」
早く帰りたいと言った筈なのに、全く伝わっていない様子に心底驚いた。