第79章 邂逅
「おーっ、先月ぶりじゃん、みわ。元気してたかー?」
翌4月、私と涼太は無事に大学2年生に進級した。
相変わらず彼はバスケ漬けの日々で、会えなくてもテレビの中でよく見かけるほどの有名人だ。
私は今月から、大阪に行く回数が増える。
今日は久しぶりの大阪だった。
体育館からロッカールームに向かう廊下は、意外にも人通りが少ない。
練習が終わるなり、立ち塞がるようにして現れたのは閑田選手。
スポーツタオルを首にかけているけれど、もう殆ど汗は引いているようだ。
「はい、おかげさまで。閑田選手も怪我されてませんか?」
私情を挟むのはよそう。
ここでのお仕事と、私たちの過去とは全く関係のないこと。
選手としての彼に対しても、失礼だ。
「あーっ、もう! よそよそしいなぁ。金返すからちょっとそこに居てよ」
……思いもしない単語だった。
「お金、ですか……?」
「この間お好み焼き屋で金置いて帰っちゃったろ。あーゆーのは男に任せていいんだよ。それにまさか、お好み焼きで諭吉を置いて行くとは思ってなくてさ」
諭吉……え、私、1万円札を置いて行ったってこと?
あの時はカッとなって、いくらのお札を出したかなんて全く記憶にない。
「あ、あの、返して下さらなくて大丈夫です」
「何言ってんの、貴重な金っしょ。財布取ってくるから待っててって」
なんてこと。
まさか、そんな失態を犯していたなんて。
閑田選手は、ビックリするほどの早さで戻ってきた。
しかも、着替えも終えて。
「じゃ、行こうか」
お財布を出すのかと思いきや、閑田選手はスタスタと出口に向かって歩き出してしまう。
「え、どこに……ですか?」
「メシ。俺、腹減ったし」
「あの、私はホテルで食べるので結構です」
「マクセさんと約束してんの?」
「いえ、ひとりですが」
反射的にそう答えて、失敗したと気が付いた。
マクセさんと約束していると言えば良かったんだ。
「じゃあいいじゃん。付き合ってよ」
「あの、今日はもう帰ります」
「ちょっとだけ、ね。みわの家族の話もしたいしさ」
……その単語に、弱い。
すぐ帰ると約束して、駅前までの道を歩き出した。