第79章 邂逅
ゆっくりと、車は私のマンションの前に停車した。
もう、お別れの時間だ。
今日は、まさか会えると思っていなかったから……突然の幸せな時間だった。
元々なかった筈の時間なのに、こうして別れると思うとやっぱり名残惜しくて。
一緒に、居たい。
離れたく、ない。
会うたび、別れ際がこんなじゃ、きっと涼太も困る。
ここは、にっこり笑ってまたねって。
言わなきゃ……。
「涼太、会いに来てくれて……送ってくれて、ありがとう。すごく……」
寂しいのは私だけじゃない、筈。
涼太だって、私に会いたくてこうして来てくれたって言ってた。
「……嬉しかった……また、」
あとたったの一音。
あと一音発したら、バイバイだ。
別に、今生の別れじゃない。
毎日のように電話したり、メッセージを交わしたりしてるじゃない。
そうだよ。大人にならなきゃ。
そう納得させようとする自分が大声で叫んでるのに、ぽつりと呟く声がいやに脳内に響く。
でも、会えない って。
困らせたいわけじゃない。
笑って別れたい。
「みわ」
びっくりするほど優しいその声に続いて、シートベルトを外す音……気が付いたら俯いてしまっていた顔を上げると、視界が彼で埋め尽くされていた。
「ごめんね。寂しい思いさせて」
「そ、んなの……」
そんなの、涼太のせいじゃない。
私だって、自分のやりたい事ばかりをやっている毎日だ。
お互い理解し合って、お互いを応援してるから、頑張れてるんだ。
「オレも……頑張るからさ。みわは頑張りすぎだから、あんま頑張らないように。悩み事は、相談して」
「うん……」
その広い背中に、腕を回す。
おっきいおっきい、背中だ。
色んなものを背負っているこの背中を、支えたい。
「離れてても、気持ちは変わんないっスよ」
ごくごく小さな声で、耳元で囁かれた愛の言葉と共に重なる唇。
飽きることなく、ずっと熱を分け合った。