第79章 邂逅
しっとりと濡れた前髪。
触れようとした手はあっけなく彼に捕まって、また柔らかな唇が重なる。
「は……ん」
繋がっている時の熱くて激しいキスとは違って、優しいキス。
労わるような舌の動きに、いつも泣きたくなってしまって。
彼の想いに応えようと、必死に自分のそれを絡ませた。
涼太とのキスの時に、指で耳を弄られるのが、凄く気持ちいい。
ぞくぞくして、また欲がせりあがってくる。
これは、癖……なのかな。
涼太の癖、知ってる女のひとはどのくらいいるんだろう。
そんな、どうしようもない事が頭をよぎったりする……。
なんで、幸せな時にこんな事を考えてしまうんだろう。
ぼーっとしてる時に無理矢理考え事をしようとするものじゃない。
今は、この余韻にただ浸っていたい。
ゆっくりと唇が離れると、覗き込んで来た涼太の瞳は、少し翳ったものだった。
「みわさ……大阪で、なんかあったんスか?」
「えっ」
「みわがこうやって甘えてくれんのって、なんかツライ時でしょ?」
全然自覚がなかった。
確かに、大阪での閑田選手との一件で、縋るような気持ちになってしまったのは事実。
やだ……私、涼太に甘えるのが癖になってるんだ。
言われるまで気が付かないとか、重症だよ。
「あの……なんかあったとかじゃ、ないの。慣れないから、疲れちゃって」
「ならいいけど……もっと疲れることして良かったんスか?」
ふふ、と笑う姿はいつもの涼太だ。
良かった。心配ばかりさせたくない。
私はちゃんと頑張れてるって、見せたい。
涼太は後部座席に手を伸ばし、そこに置いてあったらしい彼のバッグを探って、タオルを取り出した。
渡してくれるのかと思ったら、そのタオルで私の身体を拭きだして……。
「ま、待って、自分で出来る、自分でやるよ」
「そんな事言ったって、全然力入ってないじゃないスか」
だらりとシートに体重を預けてしまっているのは事実。
気怠くて、力が入らない。
結局なだめられながら、隅々まで拭いて貰ってしまった。