第79章 邂逅
濡れた息遣いが、この狭い空間を染め上げる。
後頭部を掴む手が、腰に回された腕が力強くて。
ずっとずっと欲しかった熱に、身を委ねるしか出来ない。
みわ、と優しく囁かれる声が、耳から入って来て脳内を愛撫してるみたいだ。
気持ち良くて、幸せで、ホッとして……何がきっかけになったのかは分からないけれど、何故か涙が出て来て。
段々鼻が詰まってきて、息が苦しい。
どうして涼太の前だと、めそめそしてばかりなんだろう。
嫌われたら、どうしよう。
こんなに、こんなに好きなのに。
濃厚なキスに、頭の芯が溶けてゆく。
無意識のうちに彼の首に回していた腕には力が入らなくて、下半身に熱がうつっていくのが分かる。
触って、欲しい……。
あの手で、あの指で触れて欲しい。
あの熱に、貫かれたい。
そして……彼に、触れたい。
なに、考えてるんだろう。
久しぶりに会えて、ううん、こうしてわざわざ会いに来てくれたのに、なんでこんな事ばかり考えてしまうんだろう。
元々は会えるはずもなかったのに、涼太がその距離を縮めてくれたのに。
話したい事だってあるし、彼の話だって、いっぱい聞きたいのに。
それなのに、身体中の熱は温度を上げていく一方。
「みわ……ごめん、いきなり。ちょっと、サカったっスわ。もう今日は遅いから、帰ろっか」
唇を離した彼が申し訳なさそうに言った言葉も、頭に入らない。
やだ、やだ。
そんな風に駄々をこねる自分が脳みそのど真ん中を陣取ってる。
ぐっと歯を食いしばって、数々の言葉を飲み込んだ。
「うん、ごめんね、遠くまで……」
ああ、今何を言おうとしてたのか、途中で忘れちゃった。
頭の中は涼太でいっぱいで、欲望でいっぱいで、でも同時に抵抗勢力も同様の力で主張してきて。
「んじゃ、行くっスよ」
「……ん」
そう、だってお話したい事もいっぱいあるんだから、いいじゃない。
頑張ってそう納得させて。
それなのに、静かに車が発進しても、なかなか言葉が出てこなかった。