第79章 邂逅
「八重洲……南口……」
近くにあった出口から外へ出ると、バスターミナルのような広場へ出た。
頭上の看板には八重洲北口と書いてある。
南口への行き方が分からず、すぐ近くにあった看板に駆け寄った。
どうやら、八重洲中央口の更に奥が南口のようだ。
少し距離はあるけれど、一直線。
助かった。
不慣れなこの大きな駅で、複雑な道順では目標に辿り着ける確率は低かった。
まるで迷路なんだもの、東京駅。
鞄の重さなんか気にならない。
足の軋みなんて感じない。
とにかく、とにかく足の回転数を増やして走った。
夜行バスなのだろうか、キャリーバッグを引く人の姿が目立つ。
皆、表情が明るい。
……いいな。
大切なひとと笑い合っている姿を見て、いつもならそんな事を思ってしまったかもしれない。
でも、今日は違う。
すっかり空は群青に塗り潰されている。
薄暗く、色を失くした世界に浮かび上がるようにして佇んでいるのは……
「りょ」
名前を叫びそうになって、慌ててやめた。
地下駐車場へ続く階段の前で、ニットキャップを目深に被り、立ててあるコートの襟に顔を隠すようにしている彼の姿を見つけたから。
少し疲れたように辺りの景色を眺める瞳が私を捉えた途端、柔らかく微笑んだ。
「お疲れ様、みわ」
「な、に、どうして……」
"今東京駅にいるんだけどさ、ちょっとだけ会える?
八重洲南口の地下駐入口、無理はしないで"
予想だにしなかったその文字を、見間違いではないかと3回見直した。
涼太に、会える?
さっきまで電話を掛けようかウダウダ悩んでいた癖に、それを見た途端走り出していた。
「ちょっと用があってさ」
へへ、と笑う彼の足元は、ジャージだ。
今日も練習だったんだろう。
このタイミングで用があった……?
ううん、それは違うだろう。
会いに来て、くれたんだ。