第79章 邂逅
しん、と静まり返って、耳に届くのは店内の喧騒とお好み焼きが焼ける音のみ。
「あ、ほらみわ、焦げるよ」
私の発言なんか無かったかのように、彼はヘラでお好み焼きを切り始めた。
「こうやってお好み焼き切り分けんのってさ、関東ならではらしいね。こっちだとよくツッコまれる」
「あの!」
聞こえなかった、訳ないよね。
それほど店内はうるさくない。
「ん?」
「あの、私お付き合いしてるひとがいるので」
「そっかそっか。みわは、優しいからなー。気を遣ってくれてんだろ」
「気を……?」
彼は、何を言っているの?
付き合っているひとがいる、という発言に対して、掠りもしない返答が返ってきた。
はい、と言って目の前に置かれたお皿には、焼き立てのお好み焼き。
会話が全く成り立ってない。
どうして?
「再会したばっかりだもんな、こんなすぐ言われたって困るだろ。いいよ、無理に断んなくて。いきなり言われて驚いたよな、ごめん」
そっか……私の答えなんて、ハナから信じてなかったんだ。
受け取られてすら、いなかったんだ。
「無理に、とかじゃないです。本当のことなので」
「そんな嘘つかなくていいよ、ゆっくり始めよーぜ。俺別に焦ったりしてるわけじゃないし」
「え……っ、嘘じゃないです、本当に私、お付き合いしてる人が」
何?
どうして嘘をついたことになるの?
動揺して、気ばかりが焦って。
「どんなヤツ?」
「はい?」
「彼氏。どんなヤツ?」
今度は突然受け止められて、いきなり投げ返されて。
まず彼の第一声がすんなり入ってこないのが慌てているいい証拠だ。
落ち着かないと。
どんなひと……黄瀬涼太が、どんなひとかって?
「あの……素敵な、ひとです」
「ふーん、素敵なヤツなんだ。身長は?」
すらりと伸びた足。
190センチを超えた長身は、どこに居ても目立って。
ううん、きっと涼太なら、身長が高くなくたって目立つ。
オーラが、凡人のそれとは全く異なるものだから。
「高い、です」
「へー、長身かー。顔は?」
切れ長の瞳に、高めの鼻梁。
どの角度から見ても美しい、まるで彫刻のような……。
「……格好いい、です」
ありのままを答えただけなのに、閑田選手はブッと吹き出した。