第79章 邂逅
「言ってたんだよ。みわは秀ちゃんが大好き。秀ちゃんと結婚するんだーって」
脳が停止してしまったかもしれない。
開いた口が塞がらないって、本来の意味とは違うんだけど、でも今の私の状態を表す言葉だ。
「なんだ、真に受けた俺がバカだったのかー」
なんて返せばいいの?
「俺、マジで傷ついたわ……」
そうだ、傷つけてしまったに違いない。
私だって、忘れたなんて言われたら、きっと傷つく。
「申し訳、ありません……」
今は、謝るしか出来ない。
記憶が今後戻る可能性があるのか、それは断片的なのか全てなのか、それとももう一生戻らないのか、私にも分からない事だから。
でもとにかく、彼を傷つけたのは事実。
それは誠心誠意、謝らないと。
「みわ、今彼氏いんの?」
「え?」
傷ついたという話から、どこへ飛躍してしまったのか。
苦手だ、この感じ、苦手。
どこからボールが飛んでくるのか分からない不安感。
「いないならさ、俺と付き合わね?」
それは、きっと彼がどんなボールを持っているのか分からないから。
どうやって投げてくるのか、皆目見当もつかないから。
「みわ、すっげキレイになったからさ、見惚れちった」
どこまでが本気で、どこまでが嘘か分からない。
「すみません、私」
「あのさ、敬語やめようって。タメなんだし」
涼太と話している時も、彼のペースになる事って結構多いけど、その感覚とは全く違う。
優しいように感じて、時々高圧的というか、有無を言わさぬという空気がある。
それが凄く、苦手。
ひとに対して、そんな風に思いたくないのに。
「付き合おうよ。俺と一緒にいたら、思い出すかもしんないよ」
だからこそ、中途半端にしちゃいけない。
冗談で言っているだけかもしれないけど、曖昧にしちゃいけない。
「申し訳ありません。私、お付き合いしている方がいます」
私が好きなのは、涼太だけだから。