第79章 邂逅
「みわ、S小でしょ?」
それは、まさに私の小学校。
地名から取ったものだから、あちこちにあるような名前とも思えない。
「えっと、そう、ですけど……」
「俺達さ、小4まで一緒だったじゃん。俺が4年の頃引っ越しちゃったから、それからは手紙しかやり取りしてなかったけど。秀一だってば」
待って。
全く追い付けていない。
これはまず、大前提から話さなきゃだめだ。
「あの、私……ちょっと色々あって、中学以前の記憶が、殆どないんです」
「ハァ?」
お前何言ってんだ、の顔。
そうだよね、いきなりこんな事言われたって困るよね。
でも、本当なの。
覚えてない事を証明って、どうすればいいの?
「みわが2年の時、鬼ごっこで木に登ろうとして足滑らせて落っこちたことは?」
「覚えてません……」
「昼休みに池の周りを走ってて、みわが滑って落ちたことは?」
「お、覚えて、ません……」
「みわが雨の日に廊下を走ってて、滑って転んで頭を打ったことは?」
「お……覚えて……ません……」
「じゃあ」
「すみません! 本当に、覚えていないんです!」
全く覚えていない事がぽんぽんと彼の口から出てきて、もう恥ずかしいやら何やら、どうしたらいいのか訳が分からない。
「だって、変だろ。中学時代とか高校時代、同じ出身校のヤツとかいなかったの?」
「あの、中学も高校も私立に行ったので……」
「……」
「お待たせ致しました」
「あ、ども」
沈黙を打ち破ってくれた店員さんに、感謝しかない。
でも、材料の入ったボウルを置くと、ごゆっくりと言ってすぐに行ってしまった。
どうしたらいいんだろう。
だって、本当に彼のこと、名前すら思い出せないんだ。
「ホントに、何も覚えてないんだ」
「はい……」
「秀ちゃんと結婚するんだ、って言ってたことも?」
「……はい!?」