第79章 邂逅
翌日は、朝から体育館に居た。
選手の朝のモチベーション、ウォーミングアップで気持ちも身体も温まるまでの速度、チーム内での雰囲気……気になる事は全てノートに書き出す。
私だけに任されている仕事はない。
あくまで、マクセさんの補佐だ。
彼から指示された事を、実行するのみ。
でも、だからと言って指示を待つだけでいるつもりはない。
折角、生でこうしてトレーナーの仕事が見られて、チームに密着していられるチャンス。
ひとつぶのチャンスも、逃さない。
「おはよう、みわ」
「わっ!!」
集中しているところに突然後ろから肩を叩かれて、飛び上がって驚いてしまった。
驚いた選手達の視線が集まる。
「も、申し訳ありません!」
練習の邪魔をしてしまった事を謝り、振り返ると目の前に居たのは……閑田選手。
昨日も思ったけれど、話す時の距離が近い。
思わず後ずさって、距離を取ってしまう。
「ねえ、俺の事思い出してくれた?」
「あ、あの、それが……」
どうしよう、こんな練習中に込み入った事を話せない。
簡単に説明出来る言葉はあるだろうか。
……正直に言うしかないよね、覚えていないって。
「ん? 何?」
「申し訳ありません、言いにくいのですが」
「おい閑田! 戻れ!」
横から飛んできたのは、主将の声。
「ハイハーイ。ごめん、呼ばれちった。じゃさ、今夜メシ行こうよ、約束!」
「あ、あの、ちょっ」
私の返事なんか聞く事なく、ひらひらと手を振って彼は行ってしまった。
……でも、丁度良かったのかな。
この調子じゃお話する時間もないままだし、いつまでも覚えてない事をお伝え出来ないままなのも失礼すぎる。
お話したら、すぐ帰って来よう。
ご飯とかじゃなくて、駅前のカフェでもなんでもいい。
少しだけお時間貰えれば。