第78章 交錯
「……あ、そう言えば」
「どしたんスか?」
あきサンが、甘めに淹れたコーヒーを一口飲んで、思い出したかのようにそう言った。
「みわ、ハタチになったら調査会社に依頼して、父親の事調べるって言ってたわ」
「……え」
「なんか、調査料に加えて成功報酬とかで何十万もかかるんだって。だからバイト頑張って、お金貯めてるんだって」
えっと、まあ、そうだよな。
他に、調べる方法なんてないもんな。
具体的に考えてるなんて聞いたことなかったから、少し驚いた。
……実はオレ、みわよりもみわのお父さんの事、知ってる。
高校時代、一度みわのお祖母さんに聞いた事があるから。
なんだか随分昔の事のような気がする……。
あの日は確か、ずぶ濡れになって家に帰ったんだっけ。
お祖母さんは、みわが成人して、受け止められるようになってから話すって言ってた。
オレも、その方がいいと思ってた。
まさかこのタイミングでみわもそんな事を考えてるなんて……。
でも、きっと彼女も大阪行きが決まって、そんなにすぐ実行には移さないだろう。
お祖母さんも入れて、一度ちゃんと話をした方が良さそうだ。
「黄瀬」
「あ、うん、なんスか」
「あんた、なんか知ってんの」
「いや、うん、まあ……」
「……みわが傷つかないようにしてよね」
動揺が顔に出ていたのか、あきサンにはバレバレか。
「それだけは気を付けるっスよ。オレが一番大事なのはみわだから」
それ以上、あきサンは何も言わなかった。
彼女は無言のままカップをシンクに片付け、部屋に戻ろうとリビングのドアへ向かう。
その足元は、やっぱり疲れているのか少しフラついていて……。
「あれ、あきサン、ケガしてんの?」
黒いタイツだから一見気が付かなかったけど、ふくらはぎの辺りが膨らんでいる。
ガーゼか大きい絆創膏が貼ってあるんだろう。
「……別に」
彼女はそう呟いて、リビングを出て行ってしまった。