第78章 交錯
カチャリ、鍵の音。
ドアが閉まる音に続いて、風圧でリビングのドアが揺れる音。
ガサガサというビニール袋の音が近付いて来て……
リビングのドアが、開いた。
「ただいまー」
「おかえりっスー」
「なんであんたがいんのよ」
「開口一番ソレ!? もうちょっと優しくして欲しいんスけど!」
ドアの向こう側から現れたのは、疲れた顔したあきサン。
ネイビーのトレンチコートがよく似合っている。
彼女の肌色を明るく見せる色だ。
「ちょっと寄ったんスよ。みわ今寝ててさ、カギないからあきサン待ってたんスわ」
ジロリ、こちらを一瞥する視線は、いつもの女帝。
「……みわに変な事してないでしょうね」
「今日はシロっス」
我ながら、"今日は"という言い方が悲しすぎる。
「そんならいいんだけど」
あきサンは、そう言い捨てて大きなため息をついた。
どうやらだいぶ疲れてるらしい。
「あきサン、コーヒーでも淹れよっか」
「あー……サンキュ。砂糖多めでお願い」
「りょーかいっス」
珍しく素直なあきサン、ダイニングテーブルでスマホを弄っている。
「あきサンさ、みわと家族の話したり、するっスか? あきさんの実家の話とか」
「ん? あんまりしないかな……あたしが実家に帰った時とかは、簡単に何があったかとか話したりすることもあるけど」
「そっスか……」
「みわにとっちゃ、家族の話ってあんまりすすんでしたいもんじゃないかなって。なんかまずい事でもあった?」
「んーん。むしろそうしてくれて助かるっス」
みわが家族の……特に母親の事を思い出すという事はつまり、同時にあの日々を思い出す事だ。
もう、忘れさせてあげたい。
早く全部解決させて、未来だけを向けるように。