第78章 交錯
指先から、フッと力が抜けた。
良かった。眠れたみたいだ。
掛け布団を肩まで掛け直し、おでこに手を当てて……少しだけ、熱っぽいような気もする。
みわも忙しい日々、身体を壊さないようにしなきゃ。
早く辛い時間が終わりますように、そんな願いを込めて額にキスを落とした。
さて、どうするかな……まだ日は変わってない。
あきサンが帰って来た気配もなく。
みわのカギを借りて、後でポストに入れておくか……?
いや、春になると物騒な事件も増える。
ポスト荒らしのニュース、この間見たばっかりっスわ。
やっぱり、あきサンが帰って来るのを待つのが一番か。
スマートフォンを取り出してメッセージチェック。
通知欄が相変わらず騒がしい。
マクセサンやらセンパイからの連絡に返信し、何か飲み物でも貰おうかと立ち上がった時に、小さく小さく聞こえた。
「おとう……さん」
なんの音もしない今だから聞こえた、本当にささやかな声。
驚いて近寄ったけど、みわは目を閉じたまま。
寝言みたいだ……。
どんな気持ちだろう。
親がいない、って。
そりゃ、みわにはお祖母さんが居てくれてるし、身寄りが全くないという訳じゃないけど……でもやっぱり、今の状態は普通じゃない。
父親に、会いたいんだろう。
母親にだって、いつかは会いたいと思っている筈。
オレも、出来る限りの事をしてあげたい。
前に少しだけ、話した事がある。
みわは、成人したら色々な事に区切りをつけたいって言ってた。
きっと、家族の事もその中に入ってる。
みわがハタチになるまで、あと3ヶ月と少し。
……どうすん、だろな。
リビングに移動して、またコーヒーを一杯貰う。
……ふと思い立って、読んだまま返信していなかった母親からの何気ない世間話メッセージに返信した。