第78章 交錯
涼太から貰ったカイロは、貼って暫くすると熱を発し始めた。
撫でて貰っているようで、じんわりとそこがあったかくなる。
横になっているからか、涼太がすぐ側に居てくれているからか、少し痛みが和らいだ気もして……少し、瞼が重くなってきた。
大した効力もなかった痛み止め、眠気だけはしっかりと届け始めてしまったらしい。
「涼太……帰るの、遅くなっちゃう」
「大丈夫、ちゃんと時間見て帰るっスよ。それより、こんな痛いの……病院とかでなんとかしてくんないんスか?」
「病院……?」
お腹が痛くなるのは毎月の事で、酷い月には頭も腰も痛くなって、怠くて動きたくなくなって……いつもの事だったから、そういう発想は無かった。
レディースクリニックや産婦人科はいつ行っても混んでいるから、ついつい優先順位が低くなってしまって。
でもこれから社会に出て働くようになるなら、ちゃんと自分の身体についても知っておかなきゃいけないのかな……
はっと気がついて目を開けた。
いけない、考え事をしている内に勝手に目を閉じてしまっていた。
横には、愛しいひと。
変わらずあるその気配に、嬉しくて胸が締め付けられるみたいだ。
「寝てていいんスよ」
……どこから出てるの、その甘い声。
いつも、皆とふざけている時の声とは全く違う。
ゆっくりゆっくり頭を撫でる手が、心地良くて。
「ちゃんと、身体がキツい時は病院に行って、ね。我慢して無理しないで。それも約束」
「うん……」
色んな事が至らなくて、嫌になる……。
愛して貰うばっかりで、返したい返したいばっかりで、本当に……
ゆっくり、視界が黒くなっていってしまう。
同時に落ちていく意識の中で、聞き覚えのある声が再生された。
「みわ、愛されるのはね、才能だよ」
脳内に流れた声。
低くて、諭すような優しくゆっくりな口調。
誰の声だっけ……?