第78章 交錯
「モチロン! やるっスよ、やる! 火神っちNBA記念っスかね、本人いないけど」
青峰っちが無造作にアスファルトに置いた大きなボストンバッグから出て来たのは、おなじみの球体、バスケットボール。
器用に人差し指一本でボール回しを始めた。
このヒト、ホントバスケに関してはすげーのに、なんで桃っちの事になるとあんなに鈍感なんスかね……。
「なんつーんだ、こういうの。火神のバカに……とむらい?」
「……なんか違う気がするんスけど」
「何が違うっつーんだよ」
青峰っちの言わんとする事は分かる。
火神っちの門出を祝う的な、なんかそんな言葉があったけど、パッと出てこない。
「うーん、なんかピッタリの言葉があったような……」
「分かんねーならいいじゃねーか、火神へのとむらいで」
いや、良くない気もしつつ、もうそんな事どうでもいい気もしつつ。
くるくると続けていた回転を止めて……ボールは大きな掌に吸い込まれていく。
一瞬、指が離れそうになって……
来る、青峰っちのドライブはこの間合いだ。
集中しろ。
集中……
「火神君を殺さないで下さい、青峰君」
「わぁぁぁっ!?」
オレ達の真横から降って湧いたような……全身を走る緊張感とは全く無縁の冷静な声に、ビックリしすぎて腰が抜けるかと思った。
「おわっ、テツ!? いつの間に!」
そう、オレ達のすぐ横に佇んでいたのは……黒子っちだ。
「ボクは最初から居ました。キミ達が後から来たんですよ」
「は、はは……相変わらずっスね、黒子っち」
一気に気が抜けた。
青峰っちもドリブルをしようとしていた手を止めて、またボール回しを始めている。
気が付けば、黒子っちの手の中にあるのも……ボールだ。
青峰っちと全く同じモノを持っている筈なのに、黒子っちのボールの方が一回り大きく見えるのは、手のサイズのせいか。
「テツもバスケしに来たのかよ」
「はい……火神君から電話を貰って、なんだか無性にボールを触りたくなりました」