第78章 交錯
「……ま、アイツがユニフォーム着て試合に出れんのなんか、まだ先だろ」
青峰っちがノンアルコールカクテルを一口飲んで、一言。
薄暗い個室居酒屋で、彼が薄ピンクの液体を飲み干している姿がなんか面白い。
「ん、多分そうじゃないっスか。今はどこのチームも若手の育成に力を入れてるって。多分その一環で火神っちに声が掛かった感じっスよね」
あの天性のバネと跳躍力は、東洋人のそれとは思えない。
恵まれた体格も相まって、素材としては十分だ。
きっとこれから彼はあの大きなチームで更に成長し、頭角を現していく事だろう。
「……青峰っち、なんか追加頼むっスか?」
壁に立てかけてあったメニューを開こうとして……扉の外から聞こえてきた黄色い声に手が止まった。
「きゃー、ねえ、マジ?」
「マジマジ、間違いないって! 絶対、黄瀬涼太と青峰大輝だった!」
ドアの前から聞こえるコソコソ話。
と言うかこの店内のざわつきにも負けずに聞こえてくるのだから、コソコソとは言わない気もするけど。
「え、どうする? サイン貰っちゃう?」
「写真撮らせてくれないかなあ」
1、2、3……結構居そうだ。
今はオフの時間。
久々に会った青峰っちとバスケの話をして、ストレス解消中。
正直、放っといて欲しい。
「青峰っち、あのさ」
「行くぞ、黄瀬」
「へ」
青峰っちは、それだけ短く言うと伝票と荷物を持って、躊躇う事なくドアを開放した。
「ちょ!?」
きゃあと響いた短い歓声にも足を止める事なく……慌ててオレも青峰っちに続いた。
桜が咲くのってもうすぐだっけ?
まだまだそんな気配すらない並木道を抜けて、ずかずか歩みを進める青峰っちについて歩く内に辿り着いたのは大きな公園。
なんかここ……昔、来た事があったような、なかったような。
「お前、大変だな」
「ん? 何がっスか」
「あーやっていつもファンに追いかけられてんのか。あれ、お前のファンだろ」
「いや、青峰っちの名前も出てたから! 青峰っちのファンもいたっスよ」
「ふーん。知らねーけど」
やっと彼が足を止めた……と思ったら、目の前にはバスケットゴール。
「やんだろ」
その瞳の輝きは、中学の頃と同じだった。