第78章 交錯
「もう大丈夫なのかよ」
「はい、お待たせしました。よろしくお願いします」
助手席に乗り込み、シートベルトを締める。
窓の外で頭を下げる涼太を、角を曲がって見えなくなるまでずっと見ていた。
涼太が視界から消えると、何故か周りの空気が少し色褪せて見えた。……気のせい?
「珍しいな、神崎がそんなにニヤニヤするなんて。なんかいい事でもあったのか?」
「えっ……私、ニヤニヤしてますか!?」
やだ、そう言えばさっきから頬が緩んでる気がしてた。
合鍵を貰った事が嬉しすぎて……。
涼太にも、ばれてた?
「いいんじゃねえの。嬉しい時は嬉しい顔すんのが当たり前だろ」
「……はい」
ああ、やっぱりこのひとの言葉も真っ直ぐこころに届く。
涼太と同じだ。
「オマエ、春から大阪通うんだろ」
「はい。……え?」
笠松先輩の口から出たまさかの単語。
大阪……って聞こえた よね?
「マクセさんから聞いたんだよ。最近、全日本関連で黄瀬のトコによく顔出すから」
「あっ……そう、なんですね」
そっか。
私が思ってるよりもずっと、涼太とマクセさんは一緒に居るんだ。
涼太があの時のこと、根に持ってなくて良かった……。
「デカいチャンスだな」
そうだ。
これはチャンス。
ただ生活しているだけでは絶対に訪れない、チャンス。
でも……
「はい。これ以上ないくらい大きなチャンスを頂けました。私なんかが、こんな大きなお話……いいんでしょうか」
やっぱり、この思いがつきまとう。
私みたいな人間が、いいのかな。
「神崎」
「っ、はい」
その、硬い声音に思わず肩を竦めてしまう。
先輩は、やっぱりいつでも変わらず先輩で。
「自分なんかが、なんて甘えてんじゃねえぞ。与えられた機会を無駄にしたら、もう2度と来ないかもしれねえ。自分を卑下してる暇があったら、もっと貪欲になって、図々しくなって、今しかないチャンス、思う存分吸収してこい」
……やっぱりいつでも変わらず先輩で。