第24章 引越し
物置と言っていた部屋には、本当に何もなかった。
置いてあるのは段ボール1箱だけ。
この部屋だけで、うちがまるっと入ってしまいそうだ。
「もう片方の部屋は……」
「あ、そこは寝室っス」
寝室。
その響きに、入ろうとしていた足が反射的に止まった。
ドアを開け、入り口から中を覗く。
見たことのないようなサイズのベッドが1つと、棚が1つ、後はクローゼットがあるだけの部屋だった。
「ベッド……大きくない?」
「ああ、もう寝るだけの部屋だし、キングサイズのベッドにしたっス。存分にイチャイチャ出来るっスよ?」
思わずベッドの上での情事を想像してしまう。
焦ってドアを閉めた。
「みわっち、照れなくてもいいのに!」
「っ、違うよ!」
からかう声を背に、足早にリビングに向かう。
「わ……広い……!」
ドアを開けると、広い空間。
窓が大きくて、開放的だ。
「まあここ、ファミリー向け物件みたいで何かとデカいんスよね……」
大きなテレビとソファが置いてある。
全体的に家具がなく、スッキリした印象。
お風呂もトイレも、1人暮らしでは大きすぎるようなサイズだった。
ある程度家中を周ると、すっかり疲れてしまい、ぐったり。
緊張しているからかもしれない。気疲れかな。
「みわっち、お茶入れるから座って」
ソファに腰掛け、一息ついた。
「どう?」
「なんか……別世界だよ。でも、キレイなおうちでいいね」
黄瀬くんがお茶の入ったグラスを持って来た。
「ありがとう。いただきます」
黄瀬くんが隣に座り、私の膝に手を置いた。
「みわっち、真面目な話、一緒に……住まない?」
「……え?」
「オレ、みわっちとずっと一緒にいたい。
離れたくないんス。
みわっちは、そうじゃない?」
私だって、離れたくない。
一秒だって離れたくない。
「もし皆にバレたら大変な事になるよ……?」
「そんなんどうだっていいっスよ。
そしたらモデルなんてもうやんねーし」
「少し……考えさせて」
「うん、期待してるっス」
考えさせてといったものの、非現実的だ。
誰かと……黄瀬くんと一緒に住むなんて。
みっともないとこ、全部見られてしまうし。
すっかり甘え癖がついちゃってるし。
ないない、あり得ない!