第78章 交錯
「オレさ……時々、考えるんスよ」
「……うん」
食後、テーブルを囲むふたりの手の中の白いマグカップには、薄い飴色の液体。
涼太のリクエストで淹れた、甘いミルクティー。
「考えても答えが出なくてさ……」
その甘さとは対照的な、左斜め前に座っている涼太の憂いを帯びた表情。
やっぱり、さっきの相談で気がかりがあったのかもしれない。
聞くのが怖い。
けれど、涼太はさっき、私の気持ちを全部聞いてくれた。
私だって、彼の全部を受け止めたいから。
「どんな……こと?」
涼太はもう一度、うーんと唸って。
テーブルに目線を落として、すぐに上げて。
目が、合った。
まっすぐ。
射貫かれるような、まっすぐさで。
そして、端整な唇から紡がれた言の葉は……
「イチャイチャって、何から何までを言うんスかね?」
「…………い?」
いちゃ、いちゃ?
「いや、セックスすんのもキスすんのもイチャイチャだけどさ……例えばこういう」
こういう?
マグカップを包んでいた長い指と大きな手が、テーブルの天板を伝ってこっちに向かってくる。
抵抗する暇もなく、指と指が絡まった。
「これも、イチャイチャ?」
瑞々しい肌の感触が、指の間から伝わってくる。
絡ませたまま、お互いの指の側面を擦り合わせるように上下されて、背筋から首筋に向かってぞくりと走る甘い衝動。
思わず肩を竦ませた。
「ねえ、みわ?」
「な、んでそんなこと聞く、の」
「だって、折角のバレンタインなんスもん、甘い恋人たちの時間を堪能したいなって」
触れているところからじわじわと熱くなって、全身が痺れるみたいに動きが鈍くなって。
数秒前の会話も、朧げにしか思い出せない。
とにかく今は、涼太の質問に答えなきゃ。
「あの、十分、いちゃいちゃしていると思われます」
目を合わせられないままそう答えると、涼太の笑い声と共にすっと指が離れていく。
彼の元へ戻っていくのかと思いきや……今度は頬に、触れた。