第78章 交錯
「みわ、この間の約束……覚えてるっスよね」
ゆっくりと耳に入ってくる甘やかな声に、思わず目を瞑ってしまいそうになる。
なんて心地良い音なんだろう。
でも、今はその言葉の意図をちゃんと拾い上げる事に集中しないと。
「約束……自分のやりたい事を選ぶって、いう……」
「そそ」
うんうんと首を縦に振る姿は、まるで少年のようにあどけない。
それなのに……
「みわの、やりたい事は?」
やっぱりこの瞳の引力に抗えない。
「私の、やりたい事……は」
私のやりたい事。
大阪で、補佐のお仕事をしてみたい。
ここで、涼太の応援をしていたい。
どちらも、本当。
でも……どちらを選んだとしても、私がやりたい事は……。
「成長、したい」
「そっか」
涼太は、私がこう言うのを分かってたみたいだ。
さっきから、私が投げたボールを音も無く受け取ってくれている感じ。
「大丈夫。その目をしてるみわは大丈夫。オレは何にも心配してないっスよ」
「でも」
「他のチームのスタッフになったからって、みわがオレを応援してくれてる気持ちには変わりないっスよね?」
「うん」
変わらない。
いつだって、私のナンバーワンは黄瀬涼太で、それはこれからもずっと変わる事はない。
「ほら、大丈夫だ」
「でも、でもね、そんなどっちつかずな気持ちで、ちゃんとお手伝い出来るのかなって、それが不安で」
でも、どうして涼太はこんなに言い切れるんだろう。
不安なの。
どうしようもなく、不安。
「大丈夫だって。みわはね不器用だから、多分オレの事も、向こうの学校の事も全力で応援するって事、分かってる」
「全力でどっちも応援って……だめじゃない、そんなの」
そんないい加減な事をしたくないから、悩んでいるのに。
それなのに、さっきから涼太には全く迷いがない。
涼太には、この先が全て見えているみたいだ。