第4章 黒子くん
彼女がトイレに立つと、黒子っちが控えめな声で話しかけてくる。
「えーっと……神崎さんって、本当に彼女じゃないんですか? 呼び方からして、黄瀬君が認めている人だというのは分かりますが」
「違うっスよ〜。前に、たまたま痴漢から助けたことがあって。何、黒子っち、ああいう子がタイプっスか?」
「タイプ……というのはハッキリ分かりませんが、なんだか惹かれますね」
「えっ?」
あの黒子っちが。
意外な返事に、咄嗟に返す言葉がなかった。
「彼女は姿勢が良くて、真っ直ぐ目を見てくる。若干人間不信な感じがありますが……芯の強さを感じます。素敵です。それに、黄瀬君のこともちゃんと見ている」
それは、オレもちょっとビックリした。
彼女があんな風にオレのコト、思ってくれていたとは。
海常というチームが好きって言ってくれたのも、嬉しかった。
なんか、心がポカポカするっていうか、あんまり知らない感覚。
「……ボク、彼氏に立候補しようかと考えています」
「えっ!」
突然の黒子っちの発言に、返した返事は自分でも驚くほどのボリュームだった。
「……ビックリさせないでください、黄瀬君」
「ご、ごめん」
黒子っちなら、きっと彼女を大事にしてくれるだろう。
誠実で、優しくて、頭が良くて……安心だ。
いやいや、そもそもそんなの、オレが気にするようなことじゃないっスけど。
「神崎っち、男性恐怖症みたいなんスよ」
黒子っちなら安心……そう思ったハズなのに、まるで口が勝手に話し始めたかのような感覚。
「そうなんですか」
「でも最近、オレには結構慣れてきてるみたいで……」
何、言ってんだ。
まるで対抗してるみたいじゃないか、これじゃ。
「ボクも、2人でここまで来ましたよ。まあ、どちらにしろ、もしお付き合い出来るのなら、克服までなんとかボクが頑張ってあげたいですね」
こうなると売り言葉に買い言葉。
黒子っちも、彼らしくない強い口調だ。
「っ……」
何イライラしてるんだ、オレ。
なんだ、このモヤモヤ。