第78章 交錯
窓の外から、カラスの鳴き声が聞こえる。
カラスって、集団行動する鳥なんだって、おばあちゃんに教えて貰うまで知らなかった。
なんとなく、黒くて強そうで、1匹でも強く生きていけるような気がしてて。
そんな事ないんだよね。皆、助け合いながら生きてるんだよね。
何事も、思い込んじゃいけないなって思ったのを思い出した。
あれから2時間近く経ったけど、涼太は寝返りひとつ打たずに眠っている。
寝苦しくないのかな……と思ったけど、その安らかな表情から、杞憂である事を知る。
音が出る訳がないのは分かっているけれど、そっとスマートフォンを撫でた。
表示したのは、メッセージアプリの履歴。
表示名は"笠松幸男"。
笠松先輩が足を故障した時に色々と話したのをきっかけに、今でも頻繁に連絡を取り合っている。
笠松先輩や小堀先輩のこととか、その他にも元海常バスケ部メンバーの近況とか。
そして……一番多いのは、普段の涼太の様子。
最近、寝る時間もない程忙しいこと。
先輩方に疲れているのを悟られないように振る舞っていること。
時々、焦っているような発言があること。
高校1年の時、足を故障したあの時と状況は酷似している。
でも、涼太はあの経験から、絶対に無理はしないと誓っていた筈。
その決意も揺らいでしまうほど、何をそんなに焦っていたんだろう……?
少し、部屋の温度が下がってきた。
乾燥すると良くないからと、暖房を切ってしまったから。
涼太の背中に毛布と布団を掛け直して、キッチンへ向かう。
再び電気ケトルをお借りして、コップ一杯分のお湯を沸かし、お茶を飲んだ。
物があまり置いていないキッチンの中に、私が好きな緑茶が置いてあるというのがなんだか嬉しい。
彼の中に、私の居場所があるんだななんて認識する事が出来て。
そんな事でもしないと、不安で不安でたまらなくなる時が、ある。
涼太が目を覚ましたのは、それから1時間ほど経ってからだった。
「オレ……何時間寝た? ごめん、みわが来てくれてんのに、ごめん」
「今日はゆっくり休むって約束したんだから、気にしないで」
それは本心からの言葉なのに、また涼太はしょぼんと落ち込んでしまった。