第78章 交錯
「どうしよっか、DVDでも観る?」
「だめだよ、ちゃんと寝てなきゃ」
ウキウキとDVDを持って来た涼太を一刀両断してしまった。
しょぼんと折れた犬耳が見えるようで、可哀想なんだけど……。
いや、ここは私もこころを鬼にしなきゃ。
渋る涼太を説得し、結局DVDを観る事にはしたんだけど、涼太はベッドで横になりながら。
私は、ベッドに寄りかかりながら座って観る格好で。
丁度ベッドとは反対側の壁にテレビが設置してあって、距離もいい。
眠る妨げにはならなそうかな。
そんな事を考えていたら、背後から聞こえてきたのは小さな寝息。
観ながら眠れたらいいけど……なんて考えていたけれど、まさか開始10分で寝てしまうなんて。
やっぱりまだ万全には程遠いみたい。
映画は導入部分。
ファンタジー大作、3時間くらいあるみたいだけど……。
とりあえずDVDは停止しないまま、ベッドの上の涼太に視線を移す。
うつ伏せになって枕に頭を預けている姿がなんだかとても無防備で……。
さらさらの前髪が広がっているのは、まるで金色の繊細な絹糸みたいだ。
男性にしては長い睫毛は、ぴくりともしない。
そして、緩やかに上下する肩。
……やだ、私なに考えてるの。
これじゃ、ただの欲求不満だ。
そうだ、涼太が眠っている間に、出来る事をしちゃおう。
大きな音を立てなくて済むような料理とか、お掃除とか……。
とはいえ、片付けは昨日あらかた済ませてしまった。
お料理も、すぐ出来るようにと仕込みをしてしまったし……。
どうしよう。
どう時間を有効活用すればいいのか思いつかなくて、とりあえず手帳を開いてみた。
今日は2月14日。
マクセさんには、末日までにお返事すればいいことになっている。
もう今月、涼太に会える約束はない。
相談するなら、今日しかない。
何を迷っているんだろう。
クリスマスの時に感じた、"私が彼の隣にいなくてもいいから、涼太にはずっと輝いていて欲しい"というのも"彼と並べるように強くなりたい"というのも、本音。
それが、真逆のことだというのも分かっている。
いつも、何かを間違えてしまっているんじゃないかと不安になる。
私が向かう方向は、こっちで合ってるのかな。