第78章 交錯
「薄味なのに、ちゃんと味がするっつーか、これダシ? めちゃ美味かったっス。ご馳走サマでした」
使っていた木製のスプーンをテーブルに置いて、両手を合わせてぺこりとお辞儀をした涼太の顔色は、まだいいとは言えない。
血色が悪いし、目の下のクマまで出て……いつもの彼からしてみたら、かなり体調が悪い状態だという事が一目で分かる。
それでも昨日よりは幾分マシになったけれど。
「お粗末様でした。もうお腹いっぱい? まだ作れるよ」
「ん、もう十分。食べたいけどまだそんなに量は食えねえっス」
「そうだよね……」
「早くいつもの感じになんねーと」
そんなにすぐには回復出来ないよね。
体調を崩すのは一瞬、その後元通りになるまで、何倍もの時間がかかるんだ。
もう、午後になろうという時間。
今日はゆっくり寝れたみたいだから、ちゃんと栄養もとらないと……。
でも、私には栄養の知識が全く無い。
スマートフォンで調べながら、見よう見まねでやっているのがなんとも情けなくて。
そう言えば、バタバタしていてすっかり忘れてしまっていたけれど、今日はバレンタインデー。
本当なら、チョコを作って持ってくる筈だったんだけれど……甘いものって、胃が弱っている時には良くないよね。
「みわ、今日は何時まで居られんの?」
「あ、えっと……何時でも、大丈夫。終電までには帰ろうかなって思ってるけど……」
明日はまた朝からバイト。
稼げる時に稼いで、お金を貯めておかないと。
「車で送るっスよ。明日はバイト? あんま遅くならない方がいいっスよね」
涼太は、こんな状態で何を言ってるのか。
「今日は大丈夫、ひとりで帰れるから! うん、早めに帰ろうかな」
心配かけちゃダメだ。
更に、こんなに疲れてるのに運転なんてもっとダメ。
今日は早めに帰ろう。
また会えるんだし、体調が悪い時に無理させてはいけないよね。
涼太は、眉を顰めてほんの少し俯いた後……いつもと変わらぬ笑顔を湛えて顔を上げた。
「やっぱ今から帰る時の話すんのはヤメ。ね」
「あ、うん……」
そうだよね、今は一緒に過ごす時間の事を考えよう。