第78章 交錯
「ありがとう……涼太」
その話を聞いて、少しだけ頭が整理出来始めたみたい。
忘れちゃいけない。
誰の為に変わりたいのか、どうなりたいのか、先のビジョンを。
部屋の明るさは変わっていない筈なのに、何故だか少しだけ、部屋の景色が違って見えた。
涼太は緩く弧を描いた唇の形を変えないまま、私の身体を起こしてくれる。
「みわが何悩んでるのかは分かんないっスけど、オレで出来る事なら、相談してね」
えっ、という声が出る前に、私の顔を見た涼太は吹き出した。
「みわは、自分で思ってるよりもずっと顔に出やすいタイプっスよ」
「う、すみません……」
自分で思ってるよりも……というより、記憶の中ではずっと表情の無い子だと、言われてきた。
いつからだろう。いつから、私から表情が消えてしまったんだろう。
また、感情を表に出せるようになったのは、涼太のおかげ。
……彼と距離が出来てしまうかもしれないからだろうか、さっきから涼太の事ばかり考えてしまう。
彼が、自分にとってどれだけ大切なひとなのか、1秒ごとに再認識する。
そうして、ゆっくりと自分の首を絞めていく。
「寝よっか、みわ」
「あっ、うん、おやすみなさい……」
自分の選択が、ただでさえある距離をもっと広げようとしているものだというのは分かってる。
だから、なかなか言い出せないでいる。
これが本当に正しいのか、決められないでいる。
悩んだ時は、自分のしたい事を意識する……涼太と約束したこと。
成長する為に、大阪の大学での活動をしてみたい。
涼太の近くで、涼太の応援をしたい。
どちらも、間違いなく今自分がしたいこと。
嘘はないし、気持ちの大小もない。
一所懸命考えても、あと一歩のところで壁にぶつかってしまう。
必死でその先を考えようとしても、進めなくて。
ふわりと包んでくれる涼太の香りに身を委ねると、意識はあっという間に夢の中へ連れて行かれてしまった。